(バーミンガムロイヤルバレエ団の記憶とか)
新国立バレエ団のピーター・ライト版『白鳥の湖』が開幕しました。
私は米沢さんの日と木村さんの千秋楽日を買っており、明日の30日から参戦となります。
明日から! 楽しみです。
このライト版『白鳥の湖』、私は2015年のバーミンガムロイヤルバレエ団来日公演で見ているのですが、あの時は何の予備知識もなく、またマシュー・ゴールディングが途中降板したため、リラックスしてゆる~く見てました。そしてその後のドラマチックな展開と衝撃の結末に、
「?!?!?」
妄想と疑問でいっぱい。
あれから6年を歳月を経て、明日の舞台で、いよいよその答え合わせとなります。
果たして。
ライト版『白鳥の湖』って、【ベンノと王子の物語】ですよね…?
記憶が上書きされる前に、当時の記憶をたどって、バーミンガムロイヤルバレエの備忘録など。
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冒頭、亡き王の葬列、今にも崩れ落ちそうな王子を、後ろから支えるベンノ。
一幕、ズラリと並べられたお妃候補の釣書を前に、鎮痛な面持ちの王子、ベンノは娼婦を呼んで王子に気晴らしを勧める。
いつの間にか照明が落ちて薄暗くなった居室に、ベンノと王子が二人きり。バルコニーから月を眺める憂いの王子と、その姿を見つめるベンノ。
そこに流れてくる、甘く美しい旋律。
(え、音楽、今それ?)
「白鳥の湖」メインテーマ『情景』。後から思い返してみると、プティパ・セルゲイエフ版をはじめ、わりとよくある曲順であることにはあるのですね。でも使われる場面のストーリーが違う。二人きりのこのシチュエーション、
(きみ、王子に恋してるの?)
ハープがぽろろーんと響いて、もうそうとしか思えない。これがロマンスでないなら、そうでない理由を誰か教えて。
舞台はすっかりアオハライドなベンノの世界。
二幕、王子は白鳥姫とアダージオを踊る。そこにベンノはいない。王子のみ。
三幕、華やかな舞踏会、姫君の従者一行はそれぞれ国際色豊かな民族衣装なのに、肝心の姫君たちがなぜか揃ってオバサンみたいな地味な茶色のドレス。
どうして?これでは誰が誰だかわからない。まるで十把一絡げのへのへのもへじ。姫君らのお国は大事だけど、個々の姫君そのものはどーでもいいってこと?
とある姫君なんて、グレゴローヴィチ版ロットバルトのテーマ、
♪♪ズン・ズン・ズン・ズン ジャジャジャジャーン・ジャジャジャジーャン♪♪
で踊り始める始末。これ、邪悪のテーマ曲でしょうに、姫君たちって敵なの? たとえベンノにとって姫君が王子を奪い去る敵であるとしても、これではあからさま過ぎる、わかりすぎやわ、この正直者。
そして舞踏会は大荒れに荒れて、オディールの後を追って走り去る王子、ベンノは華麗にマントを翻し、颯爽と王子の後を追う。
(なんでベンノがマント?)
物語はいよいよ佳境へ。
四幕、オデットの後を追って、湖に身投げする王子、ベンノは間に合わず、湖から王子を引き上げる。
王子の亡骸を抱きあげた悲しみのベンノ。先刻の例の長いマントが空気を孕んでふわりと広がって、絶望の中で物語が終わる。
(え、引き上げるの王子だけ? オデットは?)
(そもそも、オデットって、存在したの?)
(もしオデット/オディールが王子の心の内にしか存在しないなら、王子はお妃選びの舞踏会で、オデットの後を追ったのではなく、逃げたの?)
(逃げたって、何から?)
そこで脳内に流れ出す、フルオーケストラの『情景』。
そして冒頭の「?!?!?」に戻るのですが、いけない、このままでは二次創作の薄い本が出来てしまう。
三行にまとめます。あの日、ライト版に私が感じたストーリーは、
(ベンノと王子は互いに心を通い合わせることはなく、王子は自分の世界に閉じこもる。ベンノの手は常に王子に差し出されているのに、王子はその手を取ることはなく、逃れるように自ら命を断ってしまう。)
オデットは王子の内面にある純粋の象徴、真実の愛。
それを自ら殺してしまったから、もう王子も死ぬしかないの。
……と、自分で書いてて、わりと病んでるのは自覚はあるけど…でも、こんな風に見えてしまったのね…
ベンノから見る現実の世界と、王子の逃避する理想の世界。
「いつまでもフラフラ遊んでばかりいて!」「さっさと結婚しなさい!」「私が選んだ中から決めて!」とわめき散らす母親(または上司)、嬢を呼んでの乱痴気騒ぎ、ちょっと二人きりになってみたり、舞踏会ではお見合いマッチングとか「もうしんどい勘弁して」
こちらの世界はどこまでもリアルで過酷で、理想の世界は美しい。
さて、夜も更けてきました。明日の新国立の舞台で答えは見つかるかなーー
(包み隠さず言うと、ライト版『白鳥の湖』って【ベンノと王子の悲恋】の物語ですよね? 王子が自ら死を選ぶことによって、彼らの恋が成就するの。だから、あのラストシーンがあんなにも悲劇的で美しい。王子の亡骸を抱いて佇むラストは、まるでピエタ像のような荘厳さだったわ…)
(これを、本当に新国立でやるの…?)