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ピーター・ライト版『白鳥の湖』 その③

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(ピーター・ライト版『白鳥の湖』その②からの続き)

 

2015 バーミンガムロイヤルバレエ団(BRB)

2021.10.30 米沢唯/福岡雄大

2021.11.3 木村優里/渡邊峻郁

 

 

 

米沢さんの舞台のあと、作品をもっと知りたくなり、久々に公式プログラムのあらすじと解説を読んでみたところ、二幕のあらすじで

 

“まだ恋をしたことがない者が彼女に永遠の愛を誓い、……”

 

と書かれていることに気づきました。

なんと、オデットにかけられた魔法を解く相手の条件として、「純潔」のみならず「初恋すら未経験」であることが求められるのですね。

 

 

わりと、ハードル高いのね…

 

 

ここまで条件を限定する必要もないように思えますが、公式のあらすじにわざわざ書いてあるのですから、これは重要事項なのでしょう。

 

他に思ったのは、クルティザンヌについて、新国立の公式プログラムの解説でもあらためて「高級娼婦」と明記されていることです。BRBではキャスト表記からハッキリと「娼婦」とありました。

 

ライト版の特徴の一つに、この役どころが「王子の友人」ではなく「娼婦」であることが挙げられますが、そんな、わざわざ「娼婦」って書く必要あります? もっと他にマイルドな呼び方あるでしょうに、どうせ今風に言って「タワマンのホムパに西麻布のラウンジ嬢を呼んで」くらいのイメージでしょ? たとえ事実上のプロフェッショナル嬢であっても、みなさん「友人」っておっしゃるでしょうに、と勝手に妄想していたのですが、

 

 

…もしかして、本当に娼婦を呼んだんですか?

 

 

 

そういえば、NHKBS海外ドラマ『女王ヴィクトリア~愛に生きる』で、ザクセンのアルバート公子が女王との結婚前に、まだ女性経験の無い彼のために兄君が粋な計らいで娼婦を呼び、色々と男女の寝室の手ほどきを受けてムニャムニャ……という場面がありましたが、

 

 

え、そうなの? まだこの恋をしたことのない純潔の妖精さんに、あのあと、あれして、あれなの?

 

 

 

だって公式にそう書いてるし!(書いてない)

 

 

 

 

 

 

 

(2011.11.3 木村優里/渡邊峻郁/木下嘉人)

 

冒頭、亡き父王の葬列で、蒼白な渡邊王子。

 

一幕、端正だけど、いまだ恋すら未経験の幼い王子。情感薄く、ただ困惑している。

そんな王子を支え、盛り立てようとする木下ベンノ。彼の王子に対する優しさ慈しみがほんわりと会場を包み込み、舞台は木下君の独断場。以降、木下ベンノの目線で物語が進行する。

 

そこへ現れる般若母后、人目も憚らずキレ散らかす。

 

「いつまでフラフラ遊んでいるの!」

「さっさと結婚しなさい!」

「この中から選びなさい!明日!」

 

素直な王子は悲しげにうなだれるけど、木下ベンノは適当に聞き流してる。母后のヒステリーは王子を萎縮させるだけで、クソの役にも立たない。

父王が死去し、王子を庇護するものは何もない。王子は明日にも妃を決めなくてはならないほど、事態は逼迫している。

 

(母后のキレっぷりから想像するに、分家筋による王家乗っ取りとか? NHKBSドラマ『クイーンメアリー愛と欲望の王宮』で描かれてた歴史事実もエグかったけど、そら、この甘ちゃん王子が相手なら楽勝よね)

 

これが宿命ならば、せめて王子の良き助けとなる同盟国、姫君を選びたい。

 

 

(だって、放っておいたらどんな失敗をやらかすかわからんもの、この王子)

(渡邊王子が恋愛に未経験なのは、きっと木下ベンノが余計な悪い虫を全て追い払ってきたせいね)

 

 

優柔不断な王子を、現実路線にもっていく。

(とりあえず女性経験を)

それが王子のために、今の自分にできること。

 

 

母后を追い払い、令嬢たちを帰したあと、いよいよクルティザンヌ嬢の登場。

木下ベンノが用意した高級ハイスペック理沙子嬢は今日も艶やかで有能、自分の役割を完璧に理解している。きっと初心な王子の心を解きほぐし、男にしてくれるはず。…してくれるんじゃないかな? そう期待している。

一応保険として、この男は恐らくこう言っているはず。

 

「キミより若くて可愛い子も連れてきて」

 

そうして連れてきたのはデビューしたての紗弥嬢、フレッシュで伸びやかに踊るも、ろくろ回しで回転がもたついちゃって木下ベンノがめっちゃ真顔になったりとか、そんなところが初々しく、すかさず妖艶な笑み浮かべた理沙子嬢がギュンギュン回って、

 

「妹分の紗弥ちゃんです。よろしくね♡」

 

と鮮やかにウインクを決める。ほら、こんなに楽しいよ? こちらに来て一緒に踊ろう?と、やがて王子もベンノに誘われるままに彼らと一緒に踊り始める。四人で踊るパドカトル。

 

……だけどベンノの思いが強すぎて、四人で踊っていても、実質のところ王子とベンノ二人のパドドゥ。踊っているのはあくまで彼らで、クルティザンヌ嬢たちは単なる前景、きれいな動く置物。

 

(木下ベンノ、こんなにも王子を大事にしてるのに、クルティザンヌ嬢を媒介にしないと王子とダンスもよう踊らんのよね。臆病なの。本当は彼のほうがずっと傷つきやすくて繊細。ただ、王子より現実が見えてるだけ)

 

 

続きます。

 

 

 


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